第280期 #5

エニシ

 こどもは両手に荷物を持っていた。重たい荷物だった。こどもは文句も言わず顔色も変えず荷物を運んでいた。道ゆく人びとはこどもに気づくとこどもを褒めた。えらい力もちだねえ。こどもは笑わなかった。なかには心配そうにこどもを見つめる人もいた。
 こどもは急いだ。時間までに目的地まで荷物を運ぶことが、じぶんの任務だと信じていたからである。しかし足をはやめすぎたか、こどもは石につまずいてしまった。こどもは転び、荷物は粉々になった。
 こどもは青ざめた。運ぶものがなくなってしまったからである。途方に暮れながらじぶんの手のひらを見ると、たくさんの傷があった。荷物を運んでいるときはまったく痛まなかったのに、荷物がなくなったとたんにジンジンと痛みだした。あまりにも痛かったのでこどもは声をあげて泣きはじめた。泣いているうちにじぶんがいままで歩いてきた道のりがはっきりと思い出されてきて、ますます涙が止まらなくなった。
 泣いているこどもに気づいたのはエニシだった。エニシはこどもがむかし好んで絵に描いていた生きものだった。エニシは不思議な格好をした妖怪のようなものだった。はじめはエニシの気味悪さがおもしろくてエニシばかり描いていたけれど、そのうちエニシに友だちがいないのをかわいそうに思って、エニシのまわりにクマやらウサギやらを描くようになった。
 エニシは泣いているこどもの手をそっと包んだ。エニシの手は、絵に描いたときはゴツゴツして見えるのに、じっさいに触れてみるととてもやわらかかった。こどもはわんわん泣きつづけた。



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