第256期 #2
尿意でふと眠りから覚めた。
便所で用を足しベッドに戻ると、時計は六時十一分を示している。
ベッドでは安らかな表情をした彼女が寝息を立てている。僕が寝ていた場所を向いて布団を胸にかき抱いているが、白い肌の背中はまる見えである。
今日は彼女の誕生日である。
昨夜ホテルに入ってから、プレゼントを渡しお祝いした。彼女に贈ったのは、「サマンサベガ」のハンドバッグだった。
これと決めるのには大いに時間がかかった。
彼女のファッションを観察して趣味趣向を把握し、さらに直接聞き出した。その情報を元にあらゆる店に出向いたが、全ての条件を満たす物は中々みつからなかった。
何日もかけて探しているうち、疲労はピークに達し妥協する考えがよぎった。
そんな時ネットで探していたら、まさに「コレだ!」という物を発見した。長い時間をかけてようやく選ぶべきものが決まったと思った。
ところがそれは型の古いもので、正規店での販売は終了していた。ここまで来て手に入らないと分かった時は大いに絶望した。
だが僕は諦めきれず、試しにメルカリで検索をした。すると、そのバッグが販売に出されている。しかしわずかに期待した新古品ではなく、やや使用感のある中古品であった。
画面と向き合った僕は悩みに悩んだ。
誕生日プレゼントに中古はいかがなものか。だがこれ以上理想的な物は見つかりそうもない。購入時の箱も付いているので、あとは上手くギフト包装すればイケるんじゃないか。追い詰められていた僕はそう考えた。
人に物を贈る時にこれほど不安を抱えたことはない。
彼女は満面の笑みで包装を解き、箱の中身を目にした瞬間、真顔になった。
その表情に僕はとてつもなく狼狽えた。
――バレたか。
思わず「ダメだった?」と聞くと、彼女はみるみる感動を湛え「これが欲しかったの」と言った。
この言葉で僕は纏っていた緊張から解かれた。だが、うす暗い部屋の灯りでまだ気付いていないだけかもしれないという不安は拭えなかった。
そこで体を重ねた時におもむろにバッグを彼女の頭に敷いて、少しでもくたびれている理由を作ろうと試みた。この奇行にはさすがの彼女も「え、なんで」と言い、僕は「いや……フェチなんだよ」と苦し紛れの言い訳をした――。
バッグはベッド脇のテーブルに置き直されている。
僕はそれを手に取って彼女の開いた背中に下敷きになるように、そっと差し込んだ。