第254期 #2
冷蔵庫の中には大粒の梅干しがひとつ鎮座している。もう2週間にもなる。アイツがこの家に来なくなったからだ。
どこかで酔っ払ってきてはアイツはいつもこの家でお茶漬けを喰らって帰っていくのだ。
「お前の手料理はいつも美味いよ。」って。ご飯に塩昆布乗っけてお茶かけてあの梅干し乗っけただけじゃねぇか。バカにしやがって。この梅干しがある限りはなんだかいけない気がして、キッチンに足を運ぶ。
アイツの華奢な手足に見立てたきゅうりはボキボキと麺棒で砕いていく。バラバラになったアイツは鶏ガラとコチュジャンベースの血の池地獄に漬け込む。小皿に盛って糸唐辛子と胡麻をかければ「アイツの韓国風即席漬け」の完成だ。
冷凍庫でキンキンにしたグラスには4:6で焼酎のソーダ割りを作る。最後にあの忌々しい梅干しをグラスの底に沈める。
こんな早い時間から飲むのはアイツのせいにして。音楽アプリがシャッフルで流すのは、中島みゆきの「タクシードライバー」嫌な偶然ってあるもんだ。
気づけばもう午後3時。
「西陽が目に染みるぜ。」