第24期 #7

猫の記憶

現実に存在するような男が現実に存在するような路地で頭を抱えているのだ。それは現実に存在しそうな光景で、繰り返すようで悪いのだが、これから起こる事は現実に起こりそうな事に間違いはないだろうと思われた。男は現実に存在しそうな年齢で、現実に存在しそうなスーツを着、ありふれてはいないのだが現実に存在しそうなネクタイをはめていて、いかにも現実に存在しそうなサラリーマンといった風だった。そしてまたしても現実に存在しそうな事には、「現実に存在しそうだと」いう表現が現実に存在するように、繰り返し、繰り返し、繰り返されていて、男は悪夢のように繰り返されるこの現実に存在しそうな表現に頭を痛め、その無情に繰り返される表現によって苦しんでいた。痛みは休む事を知らず、それどころか次第に痛みは増していくのだった。男はとうとう呻き声を漏らす程の痛みを覚えはじめ、現実に存在しそうな非情さが男の周りの空気を包んだ。男は現実のように固いコンクリートの路地の地べたを転げ周りながら、現実に存在しそうな神に助けを求めた。たまたま通りかかったそのカルトのリーダーは、上目使いに男を見やり、現実に存在しそうな歩き方で歩み去さった。男はとうとう現実に存在しなさそうな真の神に助けを求めたが、現実に存在しそうな現実に存在しなさそうな神は、勿論何のサインも示さず、痛みは嘲るように増し、男は頭を抱え、その頭を持ち上げるように仰け反らせながら、絶叫をほとぼらせた。

そこは遠い魔法の世界で、暗き魔法使いカルプートの野望を打ち砕くため、数々の勇敢な若者が続々と集結しつつあった。一人の若者が灰色の旗を掲げた。
卑屈な少年が暗い部屋で猫にモデルガンの弾を打ち込みながら、卑屈に笑っていた。猫は血を流しながら逃げ、少年は画面に目を戻した。

勇敢な若者達がカルプートをとうとう倒した。しかし彼らが空を仰ぐと暗い影が見えた。一人の卑屈な少年が笑うのが見えた。数々のゲームオーバーを乗り越えた戦士他達は、初めて希望を失い、絶望を知った。すぐに闇が彼らを包んだ。

男の頭痛がやっと治まると、男は現実に存在しないような爽快感を感じた。頭の中がすっきりするという現実に存在しそうな薬のコマーシャルの様だったが、男は久しぶりに微かな笑みを漏らした。路地の奥で光る二つの目が慈悲を覚え、自分を許したかのようだったが、その様な現実に存在しなさそうな事はあるはずもなかった。


Copyright © 2004 Shou / 編集: 短編