第221期 #1

走れ、ケンジとなっちゃん

ケンジがコンビニ袋をぶら下げて帰ってきた時にはなっちゃんはもう手術室に入っていた。


「あたし最期にアイスが食べたいなぁ」

自分の良心を人質にとられたケンジは病院から1番近くのコンビニに走った。中学3年間リレーの選手を勤め上げたケンジにかかればものの1分もかからなかった。

アイスのケースを開けようとしたその時、ケンジの手がピタリと止まった。
「最期のアイス、自分なら何味にする?」
額からは脂汗が流れている。


担架で王様のように運ばれてきたなっちゃんはバニラとチョコがぐずぐずになった袋と同じようにぐずぐずになったケンジの顔を見てゲラゲラ笑った。



「あん時のあんた最高だったわ。」

ソファでテレビを見ているうしろでなっちゃんがあの日と同じようにゲラゲラ笑っている。

風呂から出てきた娘が思い出したように声を上げる。

「そうだパパ、冷蔵庫にチョコレート入ってるよ。」

娘の一言を聞いたなっちゃんはカレンダーをチラリと見ると夜のコンビニに走った。


「パパがウィスキー飲むの珍しいね。」

ナイターを見ながらグラスをゆっくりと傾ける。



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