第207期 #1
私はシアトルに短期語学留学したとき圭子さんに出会った。彼女はバッグを置き忘れ迷子になっていた。私は彼女が宿泊中のホテルの名前を聞き出し、ホテルまで送ってあげた。それ以降、頻繁に圭子さんから連絡があり、海辺の別荘に何度も招待された。
お父さんが亡くなって、莫大な遺産を相続した一人娘の圭子さんは、40歳を過ぎて独身で、子供がいないからこれから寂しくなるばかりだと私に打ち明けた。
今日も別荘に招待され、訪れると、圭子さんの従姉妹の幸子さんが圭子さんはまだ寝てると言った。確かにまだ朝の十時だった。昨夜から地元の名士たちが招待され盛況だったという。
「早く来すぎたかしら」
「圭子姉さんは昨日の夕食会にあなたを招待したのよ」
「ごめんなさい、昨日は用事があってーー」
「いいのよ、いいのよ」
「三階に行っていいですか」
「もちろん」
三階建の別荘は三階に大広間がありベランダからの眺望がすばらしかった。私は三階のベランダへ行った。
海を向いた肘掛け椅子に老人がロープで縛り付けられていた。
「私は見た。巨鳥が圭子を連れ去っていった」
圭子さんの寝室に行くと誰もいなかった。幸子さんと手分けして家の周りを探したが圭子さんの姿はどこにもなかった。
私は新之助君に電話した。すると名探偵ではなく新之助君が別荘にやってきた。彼は呼ばれてないのに豪華な食事を平らげ、我がもの顔に家の中を調べて回った。圭子さんの寝室に入り、飾られている絵画をいじるとドアのように開き、その奥に書類があった。
「順子ちゃん、夕食よ」
ドアがノックされ幸子さんが入ってくるせつな、いきなり新之助君がドアに背を向け私に抱きつきキスしてきた。
「お邪魔様」
と言って幸子さんは退散した。書類は私の背中に押し付けられていた。
書類を持ち帰り名探偵に会いに行くと三つ質問された。
「三つめの質問は、現場に演劇関係者がいたか」
「幸子さんは劇団を主宰してます」
「彼女が犯人だ。圭子に化けた幸子が彼をベランダに誘い出し、SM趣味のある彼を縛り、薬物を飲ませ、演劇的演出で巨鳥が圭子をさらったと思わせた。動機は、圭子の父親が続けてきた劇団への資金援助を圭子がやめると言ったからだ」
別荘の裏山で遺体が発見され、幸子さんは逮捕された。キスしたくせに、その後新之助君が私をデートに誘うことはなかった。私から豪華な食事と美しい眺望を奪った彼のことを私は恨めしく思うのであった。