第191期 #1

てんとう虫

てんとう虫を見ると、少し複雑なきもちになります。小さい頃はそうでもなかったのですが。
あの黒か赤色の甲殻をちらりとでも見てしまうと、「ああ、見てしまった」と天を仰ぎたくなってしまう。それでいて私の目はその小さな虫から、ちょっとやそっとでは離れられないのです。どちらかと言えば虫は嫌いな方で、この現象は私の小さな悩みの種となっています。
ある時私は庭にある鉢植えをしげしげと見つめました。理由は特になく、今まで気にも留めなかった物事にふと気づいてしまうと、思わず観察してしまう癖があるのです。鉢に植わっていたのは名前も知らない見慣れた雑草でしたが、その鉢の縁にあの小さな虫が居ました。
じっと動かずに止まっています。私に気付かれたと勘違いをしているのでしょうか。私はまるで自分の妙な癖を知人に見られてしまったような気分に陥りました。意識がぐぐっと狭まるのを感じて、慌てて振り払いました。私はすくっと立ち上がって、急いで家の中へと入りました。
きっとあの虫は動き出したことでしょう。ノロノロと、何処かてっぺんを目指して。



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