第187期 #1

この街で一番の景色

 沢田は自販機でコーラを買う。
 すると秋本がネギを振り下ろした。
「ガード」
 沢田はきっちりガードする。
「ざけんな」
 と秋本は言う。
 そこへ萩山がやってくる。二人に向かって手を振り、二人も一緒に手を振る。
「このペースでいけば明日には終わるんだ」
 萩山は嬉しそうに走り去っていく。誰が終わりと言ってあげるんだろう。
「ネギいる?」
 秋本は剣のようにネギを構えた。
「頂いておこう」
 沢田はうやうやしく手をのばす。
「うっそー。お前さっきガードしたろ」
 秋本はネギの切っ先を沢田の鼻に突きつけた。沢田は顔をしかめ、コーラをぷしっと開ける。泡がこぼれて沢田の手を濡らす。ごくっと一口飲んだ後、目の前のネギをがぶっとかじる。
「まず」
沢田は顔をしかめる。
 萩山はもうどこかに去っていた。彼はやりたいことがあるから。
 二人は川沿いの土手を歩く。野鳥が空を飛ぶ。
「何の鳥だろうね」
「バード」
二人はそう言う。そう言うと下の川で鴨が鳴いた。水面下でのバタ足に二人が気付くことは無い。
「ぐぁぐぁわっ」
「似てねー」
「分かってるから真似したんだよ」
言い訳は工事の音で掻き消された。「土手の向こう側かな」コーラの空き缶を蹴飛ばして川の中の鴨に背を向ける。
「そうも言ってられない」
 前から赤いりんごがころころ転がってくる。
 とりあえず秋本がそれを拾う。かじっていい、と目が爛々。
「ありがとう」ぱたぱたとおばさんが駆け寄ってきた。秋本はかじっていないりんごを渡す。「ありがとうね」おばさんはまた言う。
「どうしたの」
 沢田が言う。
「自転車が倒れちゃったの」
 おばさんはアゴで事切れた自転車をしゃくる。秋本はりんごを食べたそうにしている。
「傷んでないかしら」
 沢田はおばさんが二重アゴだと気付いた。
「一つあげる」
 とりんごを沢田にあげた。
「いいんですか」
「いいのよ」
 おばさんは再び自転車に乗った。
「りんご」
「ごりら」
「はい負けー」
 秋本は沢田に勝った。
「ネギは」
「やるよ」
 今はりんごがお気に入り。



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