第102期 #1
ある日のことです。
心優しい天使と、ズル賢い悪魔が顔を合わせました。
「やあ、天使さん」
「ずいぶんお久しぶりですね。悪魔さん」
「せっかくお会いしたのですから、お互いがどれくらい能力が上がったものか勝負してみませんか?」
「いいですね。では、どういたしましょう?」
「ああ、ちょうどいい。あそこにいる若い女性に早く涙を流させた方が勝ちというのはいかがですか」
「わかりました。では、悪魔さんからどうぞ」
「いきますよ」
すると、女性の携帯電話がけたたましく鳴り始めました。
「もしもし? えっ!? お父さんが?? マジで! どうしよう……」
悪魔は勝ち誇ったように言いました。
「彼女の父親を急死させたのです。これで私が勝ったも同然ですね」
「それはどうでしょう」
天使は余裕しゃくしゃくに応えました。
慌てた様子の女性でしたけれども、何やら様子が変です。
「なんだよ、このクソ忙しいときに死んじまいやがって……。あいつのせいで、あたしと母さんがどんだけ苦労したと思ってんのよ! あんな奴の葬式なんて行ってられないわ」
悪魔は唖然としています。
「こんなはずでは……」
「それでは私の番ですね。いきますよ」
天使がこう言うと、女性の目の前に若く逞しい男性が現れました。
「誠一郎さん、どうしたの?」
「君に話があるんだ」
「話って、何??」
「結婚しよう!」
「えっ?!」
「君をぜったい幸せにする。俺についてきてくれ」
「せ、誠一郎さん……こんなあたしでよかったら」
「五年も待たせてすまない」
「い、いいのよ……そんなこと」
「愛してる」
「あたしも……」
そして、女性の頬を大粒の涙が零れ落ちました。
「どうやら私の勝ちのようですね」
「うむ。仕方ない……でも、次は負けませんから!」
「いつでも受けてたちますよ」
天使と悪魔は堅い握手を交わして、その場を後にしました。それから、女性と男性はいつまでも幸せに暮らしたということです。